2009年6月13日土曜日

コルタサル短編集


◆木村榮一訳『コルタサル短編集 悪魔の涎・追い求める男 他八篇』(1992,岩波文庫)

「たまには小説も読もう」と思いつつなかなか読めないので短編集を読むことにしたのだが、最初の3篇を読んで長期間ほったらかしになっていた。2泊の出張ということで期待もせずにカバンに入れたのだが、楽しく読めた。

訳がとてもこなれていて読みやすかったせいもあると思う。このところ「日本語としてどうよ」という翻訳にずっと付き合っていたので、翻訳者の力量をしみじみ感じた(もちろん、スペイン語はわからないけど)。しかし、訳者による「解説」でのフロイトやエリアーデまで援用したコルタサル論はちょっとどうかと思う(コルタサルの本をはじめて読んだ私がこんなことを言うのもどうかと思うが)。

「追い求める男」を読んだら、チャーリー・パーカーの話なので驚いた(冒頭に「イン・メモリアム・Ch.P.」とある)。作中、パーカーは「ジョニー・カーター」という名前になっているが、マイルス・デイヴィス、ジョン・ルイス、レナード・フェザーなどジャズ・ファンにはおなじみの名前がそのまま出てくる。ニカ夫人も「侯爵夫人」という名前で登場し、こちらはそれなりに重要な役割を演じている。

「解説」によると、この小説を収めた短編集は1959年に出版されているという。パーカーが亡くなった1955年から4年のうちに書かれたことになるが、故人を直接よく知る人も多数存命でその印象もまだ新しいであろうこういうタイミングでこういう小説を書いたということにも、微妙な驚きを感じる。

それはともかく、チャーリー・パーカー論として面白かった。奇抜なことが書かれているわけではなく、50年後の私が読んでもすんなり腑に落ちて、「パーカーを聴きなおしてみようか」という気にさせられた。

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