◆『マヤ神話 ポポル・ヴフ』 A・レシーノス原訳/林屋永吉訳(2001,中公文庫)
エドガー・ヴァレーズの「エクアトリアル」をナケント・ナガノのCDで聴き、その解説で歌詞が『ポポル・ヴフ』のスペイン語訳から採られていることを知り、早速本を手に入れて読んでみた(アマゾンでは品切れになっているが、HMVやセブンアンドワイではまだ手に入るようだ。私は書店で買った)。
この『ポポル・ヴフ』は、スペインによる征服後の16世紀に現地のキチェー語で(征服者から学んだ)アルファベットを使って書かれた文書で、18世紀にヒメ―ネス神父によって発見され西洋世界にもたらされた。それ以前にもマヤの絵文字で書かれた『ポポル・ヴフ』が存在したらしいが、キリスト教の布教を進める宣教師たちによってその類の書物はほとんどが焼き捨てられ残っていないという。
マヤ文明の末裔であるグァテマラのキチェー族の神話で、世界の創造から人類と日月星の誕生を経て、キチェー族の初期の王族の事績が語られる。最後に歴代の王の系譜があり、ここにスペインに征服された王族の名前が出ていることから、上述のようにおおよその成立時期が推定されている。
ヒメ―ネス神父は同書の西洋語への最初の翻訳者でもあり、「エクアトリアル」の歌詞はヒメ―ネス訳によっているが、この日本語訳は20世紀に出た新しいスペイン語訳からの重訳である。
「エクアトリアル」の歌詞に相当する箇所は、おそらく訳本の142頁(第3部第3章)の一部だと思う。CDのライナーノーツにあった短い説明と歌詞(英訳)を見て目くるめく悲劇を思い浮かべつつ訳本を手に取ったのだが、かなりの勘違いをしていたことがわかった。それでも、特に前半(第一部と、とりわけ第二部)はおもしろかった。
『ポポル・ヴフ』全編の最後はこんなふうに終わっている。
そのむかし諸王がもっていた『ポポル・ヴフ』の書はすでに失われて、もうどこにも見ることができないが、これがキチェー族の生活であった。征服されるとはまことに恐ろしいことではないか。
今日、サンタ・クルスとよばれているキチェーの国の人々は、もうみな滅びてしまった。 (215頁)
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