2009年8月30日日曜日
ダーウィン文化論
◆ロバート・アンジェ編 / 佐倉統・巌谷薫・鈴木崇史・坪井りん訳 『ダーウィン文化論 科学としてのミーム』(2004,産業図書)
それぞれに哲学・生物学・心理学・人類学などのバックグラウンドを持つ研究者たちがミーム論について論じた論文を集めた本。多数の著者による論文集ながら、このテーマで開かれた学術会議が下敷きになっており、それぞれの論が相互に参照され、多様な論があるていど整理され組織されている。
ドーキンスやデネットの著作でミームについて読んだ時はとても魅力的なアイディアだと思ったものだが、実はいろいろと問題がある概念で、ミーム学の展望は明るくないことがわかった。事実、一般への受けは良くてミームを切り口にしたビジネス書みたいな本まで出版され邦訳もされている一方で、ミーム学のウェブ学術誌 Journal of Memetics は2005年で休刊となっている。
文化現象を考える上でのダーウィン的な選択という切り口の有効性が否定されるわけではないが、それを学問として実りあるところまで持っていくのは少なくとも現時点では非常に困難だし、いつか実現するとしてもそれは素朴なミーム論という形でではなさそうだ。
人類学者の論文が2本あり、自分が人類学について何も知らないし知ろうともしてこなかったことに改めて気付かされた。今更ながら、おもしろそうな分野だと思う。
翻訳はうまくないし、そもそも意味が取れているのか疑問に思うこともしばしば。読み手の理解力の問題も大きいかもしれないが、何を言っているのかさっぱりわからない箇所が多々あった。
2009年8月29日土曜日
今こそアーレントを読み直す
◆仲正昌樹 『今こそアーレントを読み直す』(2009,講談社現代新書)
ハンナ・アーレントの入門書。分かりやすく、「アーレントの著作を読んでみようかな」と思わされた(でもちょっとしんどいかも)のだから、入門書としての役割は果たされたことになるだろう。アーレントは左派の活動家的な人と勝手にイメージしていたのだが、全然違うようだ。
2009年8月9日日曜日
旧体制と大革命
◆アレクシス・ド・トクヴィル著/小山勉訳 『旧体制と大革命』(1998,ちくま学芸文庫)
『アメリカのデモクラシー』で有名なトクヴィル(1805-59) 晩年の「フランス革命に関する研究書」。1789年の革命に至る旧体制を分析した部分のみが生前に出版され、フランス革命そのものを取り上げる続編は研究ノートが残されただけで未完。この訳書は生前出版された部分の訳で、「1789年以前と以後におけるフランスの社会・政治状態」という著者30歳ごろの短い論文を併録している。
全体は「序文」プラス全3部(プラス「補遺」)の構成になっているが、論が向かっている方向に着目すると、「フランスの中央集権体制は革命によって突如出現したものではなく、封建的社会体制から中央集権制への移行は旧体制においてほとんど完成していた」と主張する前半と、「旧体制はどのような点において1789年の革命を準備したか」をテーマとする後半とに、(第2部第7章あたりで)分けることができるだろう。
封建制から中央集権制への流れは貴族における自由の喪失に、旧体制から革命への流れは平民における平等の要求に重ねられ、自由と隷従、平等と特権が歴史の中で運命劇さながら絡み合い、大革命へと流れ込もうとする。
通説にとらわれずに往時の史料を読み込み、それぞれの階級が置かれた位置を的確に把握する手腕はみごとで、たとえば、267ページ以下の聖職者階級の描写など、シェイクスピア的な共感の才を感じさせる。
もっと知恵がついてからまた読み返したい。『アメリカのデモクラシー』も読もう。
2009年8月1日土曜日
停電の夜に
◆ジュンパ・ラヒリ著/小川高義訳『停電の夜に』(2003,新潮文庫)
アメリカのベンガル系女流作家の第一短編集。収められている9編はどれも、暮らしている社会に対してマイナーな位置に置かれたどちらかというと孤独な人々を取り上げ、訳者が「あとがき」で書いているように、広い意味での異文化間(インドとアメリカが顕著な例だが必ずしもそれだけではない)の交流とかすれ違いを描いている。エスニック・テイストも適度に利いている。
優秀な作家だと思うが、「競争熾烈なマーケットで頭角を現すために上手な小説を書きました」という感じがしてしまうのは(現代のアメリカの作家への)偏見だろうか。ピュリツァー賞まで取って確固たる地歩を占め、自分がやりたいことをできるようになったはずのこの本以降が本領発揮かと思う(その後の作品も数冊翻訳が出ているようだ)。
その萌芽が予感されるという点で、短編集の最後に置かれ、発表されたのも最後の「三度目で最後の大陸」が一番よかった。この小説もうまいのだけど、同じうまいでも他の作品よりグレードが一つ上がっている感じだ。
驚くべき斬新さや洞察あるいは深遠な思想があるわけではないが、小説好きな人が読んで楽しめる本だと思う。
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