2009年8月1日土曜日
停電の夜に
◆ジュンパ・ラヒリ著/小川高義訳『停電の夜に』(2003,新潮文庫)
アメリカのベンガル系女流作家の第一短編集。収められている9編はどれも、暮らしている社会に対してマイナーな位置に置かれたどちらかというと孤独な人々を取り上げ、訳者が「あとがき」で書いているように、広い意味での異文化間(インドとアメリカが顕著な例だが必ずしもそれだけではない)の交流とかすれ違いを描いている。エスニック・テイストも適度に利いている。
優秀な作家だと思うが、「競争熾烈なマーケットで頭角を現すために上手な小説を書きました」という感じがしてしまうのは(現代のアメリカの作家への)偏見だろうか。ピュリツァー賞まで取って確固たる地歩を占め、自分がやりたいことをできるようになったはずのこの本以降が本領発揮かと思う(その後の作品も数冊翻訳が出ているようだ)。
その萌芽が予感されるという点で、短編集の最後に置かれ、発表されたのも最後の「三度目で最後の大陸」が一番よかった。この小説もうまいのだけど、同じうまいでも他の作品よりグレードが一つ上がっている感じだ。
驚くべき斬新さや洞察あるいは深遠な思想があるわけではないが、小説好きな人が読んで楽しめる本だと思う。
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